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営業マンから日本と世界を繋ぐトリュフ屋さんへ。輸入量No.1を目指す社長の働き方|有限会社鯉沼商会 鯉沼衆斉氏インタビュー

「旅をしながら働く」「場所に縛られず働く」「旅するように働く」などさまざまな形があるトラベルワーク。
当メディアでは、そのようにさまざまな形で仕事に向き合う人の働き方にフィーチャーしていきます。
今回は、トラベルワーク運営の株式会社アステル代表・高橋の知り合いでもある、有限会社鯉沼商会(食品輸入卸業)代表取締役・鯉沼衆斉さんにお話を伺いました。

鯉沼衆斉さんのプロフィール

トリュフと男性

ーまずは現在の職業についてお伺いしたいです。

現在は東京都江東区・清澄白河を拠点に世界中の生鮮食品(主にトリュフ)を輸入し、レストラン・ホテルへ卸売りをしています。
BtoBだけでなく主にSNSを用いたBtoC販売も行っており、コロナが蔓延する前は世界でも展示会を開催していました。

ーこれまでのご経歴は?

1990年生まれ、慶應義塾大学商学部卒業後に銀行や保険会社での営業経験を経て、有限会社鯉沼商会へ入社しています。
2018年6月、父親のあとを継ぐ形で鯉沼商会代表取締役に就任し、その後トリュフを使ったパンを販売する株式会社RunSeeOhを設立しています。

金融からトリュフの世界へ

トリュフ

ー一般の企業に就職された後、あとを継ごうと思った理由は?転職の際、葛藤はなかったのでしょうか?

社会人になった当初は父の仕事の全貌がわからず、継ぐ気も全くありませんでした。しかし社会人生活をしている中で、ビジネス感度の高い方々とお話しさせて頂く時は、常に「美味しいお店」や「流行っているレストラン」の話が話題に上がりました。

調べてみるとそんな話題のレストランは鯉沼商会の顧客であることが多く、鯉沼商会やレストランのことを調べるたびに、父の会社への興味が高まっていきましたね。

ーこれまでの経歴は現職に活きていると思いますか?

思います。例えば、銀行・金融は形がないものを売る仕事でハードルが高かったのですが、今は有形を売っているというのも大きいですね。その場で触ってもらえる分、やりやすいというか。無形を先に経験していたおかげで、営業力がついたと思います。

ー未経験からの挑戦だったと思いますが、トリュフの良し悪しはどうわかるようになったのでしょうか?

2018年の入社からこれまで、毎日のようにトリュフの状態をチェックするため触っています。
加えて、届いたトリュフを実際にお客様の元へ持って行き、シェフから他のトリュフ業者と比べた率直な意見を頂くことでトリュフについて理解していきました。

ほかにも、インスタグラムで「#トリュフ」をフォローしたり、トリュフ製品がスーパーで売っていたら迷わず買ったりするようにしていて、常にトリュフに触れています。

現職について

ー主にトリュフを輸入し、レストラン・ホテルへ卸売りをしているとのことですが、やりがいは何でしょうか?

一番は「日本の食文化を支えている」という意識です。実際、お客様がミシュランの3つ星レストランであることも珍しくなく、そのレベルになると海外からそこでの食事を目的にして来る人もいるんですよね。そういったレストランに食材を提供するということは、ひいては日本代表ともいえると思っています。中途半端な食材は出せないし、日本の食文化のイメージを担っているという意識は常にあります。

ーどのようにトリュフを広めてきたのでしょうか?

当初、父親が事業を始めた1990年代では、トリュフを輸入する会社は5社ぐらいしかありませんでした。それが2010年頃から格安でトリュフを提供するレストランも出てきて、一気に一般の方にもトリュフの知名度が広がったと思います。
例えば今ではスーパーやコンビニでもトリュフ味のポテトチップスを目にします。トリュフを使った商材のニーズの高まりと共にトリュフを販売する業者も増え、今までトリュフを使っていなかった業態でも使用されるようになり、裾野が広がっていったのを感じています。

鯉沼商会ではというと、今までは色々な食材を輸入しアイテムの拡充を目指していました。しかし他社との差別化のためにトリュフだけに特化してブランディングすることを目指し、オフライン、オンライン双方向で「トリュフの鯉沼」というイメージ戦略を打ち出していきました。
こうした取り組みのおかげか、徐々に「トリュフで何かを作りたい」というお客様からお声がけを頂くようになりました。

「働く」とは?大切にしていること・辛いこと

ー経営者として型にはまらない働き方をしている鯉沼さんにとって「働く」とは何でしょうか?大切にしていることもあれば教えてください。

自分にとって「働く」とは「顧客を満足させること」です。特に、最も大切にしているのは「最高のものを、最良の状態で、安定してお渡しする」ということ。

トリュフは生モノなので、収穫してから2週間ほどで腐ってしまいます。さらに、海外で収穫されてから空輸で我々の元に届く頃には残りは10日ほどとなり、そこからは時間との闘いとなります。そもそも買ってくれるお客さんがいるのか、遠方でもちゃんと届いてくれるのか、といった不確定要素も少なくありません。
しっかりと予定を敷いてリスクヘッジをしておかないと鮮度が落ちてしまうので、そういったアンコントロールな部分をしっかり握るということに命をかけています。これが、核となるところともいえますね。

ー最近ではコロナの影響で、そういった不確定要素も増えているのではないでしょうか?

まさにそうですね。最近では海外の飛行機が飛ばなくなるなど、輸送が非常に難しくなっています。こういったコントロール外のことに振り回されることが最も辛いといっても過言ではありません。
あとは輸入を安定させると同時に、売り先を安定させることも重要な課題だと考えています。

ーどういった対策をされているのでしょうか?

ひとつは、売り先を従来トリュフを使用していたホテルやフレンチレストランに限定せず、和食や焼肉店等に広げ、幅広くお客様の層を持つことを心掛けています。加えて輸入においても、幅広くサプライヤーを持つようにしています。

トリュフは天候によっては全く取れないシーズンもあります。そういう時は他地域のサプライヤーを持つことによって、地理的リスクヘッジをはかり、顧客へお届けするトリュフを確保することに尽力しています。
今回のコロナは非常に大きな壁でしたが、今後の展開を考えると良い試練だったともいえますね。

トラベルワークという観点からみる働き方

外国人とトリュフ

ー年間のスケジュールや、普段働いている拠点について教えてください。

前までは年に3回はフランスやイタリアに行っていたのですが、今は倉庫のある江東区・清澄白河を拠点としながら、日中は顧客であるレストランやホテルへと伺っています。
コロナが蔓延する前は、食品展示会のためにフランスへ足を運んだり現地のサプライヤーを視察するためにイタリアへ飛んだりと、主にヨーロッパへ出張することが多かったです。

ー語学で困ったことはないですか?

学生時代のセブ島留学で英語の勉強はしていました。
かといってそんなに話せるわけではありません。笑
仕事上ヨーロッパの方と話すことが多いのですが、その際は相手も英語が第二言語となるので、英語でのコミュニケーションは「第二言語同士の会話」となります。なので結構聞き取りやすいこともありますし、僕の英語が間違っていたとしても、相手は言ってることを理解してくれます。
あとは困った時はGoogle翻訳で調べて相手に見せれば良いので、これで全て解決します。笑

挨拶など簡単な言葉はフランス語やイタリア語でも言えるようにしておいたり、高価なものじゃなくても日本のお土産を持って行ったりすることで相手に寄り添うことの方が大切かもしれません。

ーそういった「トラベルワーク」的な働き方の醍醐味はありますか?

全世界を舞台としながら、自分の組んだスケジュールで好きな国に行くことができるのが醍醐味だと思っています。特に海外に行った時は完全に「仕事=遊び」の感覚で働けるのも醍醐味ですね。
実際、敢えてパリ経由で旅程を組んで、「本場を知る」とか言ってわざわざ観光して帰ることもあります。笑

お酒を飲むのが好きなのですが、「その土地の文化を知るため」と自分で理由付けをして現地のバーを巡ったり、「食の勉強」と理由付けして好きなレストランへ行ったりと「これは仕事なんだ」と自分を洗脳して遊んでいます。笑

ー逆に、そういった働き方のデメリットは何かありますか?

プライベートとのメリハリがつきづらいことです。
海外とのやり取りは現地の日中に行われるので、時差の関係で夜に行われることが多いです。
さらに、輸入した荷物は休みや時間関係なく空港に届くので、土日昼夜問わず空港まで引き取りに行っては、食材の計量、パッキングを行う等、泥臭い仕事も沢山あります。
そういったことで時間をとられるので、うまく自分の時間を自分で作ることも大切ですね。

今後の展開

トリュフと男性

ー最後に、将来のビジョンや目標についてお伺いできますでしょうか。

以前は長期的な目標も考えていたのですが、コロナを機に長期の目標を決めるのを止めました。以前定めていた長期的目標はコロナにより崩れ、一から作り直すことを余儀なくされたからです。
今は時代の変化が速過ぎて、その場その場での時代に即したモノの考え方が必要です。
弊社のように規模の小さな会社は5年以上の長期目標を追うより、3年単位での中期目標を更新していく方が性に合っていると思っています。

とはいえ、今の目標は「フレッシュトリュフ流通額日本1位」を獲得することです。
現在は日本のフレッシュトリュフの流通額の凡そ13%を弊社でまかなっています。このシェアを20%以上取り、日本での流通額1位となることを目指しています。
今はBtoBでの販売が主な売上ですが、フレッシュトリュフを美味しいかたちでBtoC、一般の方々にも販売できるように、今年からトリュフを使ったべーカリーの運営も始めました。
従来の「レストラン・ホテルへの販売」と新しい「一般消費者様への販売」の2つを通じて、日本に質の良いトリュフを供給しまくろうとメンバーと共に意気込んでいます。

コロナにより卸業は大打撃を受けましたが、新しい販売先を考えたり、サプライヤーを拡充したりといったことができたので、今回のコロナショックは「フレッシュトリュフ流通額No.1」に向けての良い試練だったと思っています。

ーパン、すごく美味しそうですよね。そこにもしっかりと戦略があるということで、お話が聞けて良かったです。今回はありがとうございました。

筆者後記

今回は鯉沼衆斉さんにお話を伺いました。一見全く別の業界であっても積み上げてきたキャリアや経験を活かし、オリジナルな視点で自社の製品や顧客と向き合われている鯉沼さん。お話をしてみると、忙しそうでありながらどこか楽しそうで生き生きとした様子が印象的でした。
トリュフを介してなかなか訪れることのできない国の香りが楽しめると思うと、今まであまり身近に感じていなかった筆者でも少し興味がわいてきました。仕事、がんばろう…