見積りの金額でしか勝負できない。 この言葉を、外壁塗装業の経営者から何度聞いただろうか。
チラシ、ポータルサイト、折込広告、口コミ。 どれも一時的な集客には効く。 しかし、「3社見積り」の文化が定着した今、 どんなに技術力があっても、最後は“価格の末尾5000円”で負けることがある。
問題は、腕ではない。構造だ。 この業界は今、「営業構造の再設計」を迫られている。
1. 外壁塗装業を支配する「構造的な価格競争」
外壁塗装業界の市場規模は約1兆円。 リフォーム産業の中でも安定しているが、参入障壁が低いため、 競争は“乱戦”に近い。
営業の多くは次の3パターンに分類される:
- ① ポータル依存型:ホームプロやヌリカエなどを中心に集客。受注単価は低下傾向。
- ② チラシ・折込型:地域商圏で反応を取るが、効果は年々減衰。
- ③ 紹介・口コミ型:固定顧客は維持できるが、新規開拓が頭打ち。
この構造の問題は、どのモデルも「顧客との接点を自社で設計していない」点にある。 プラットフォームや代理店を経由する時点で、 ブランドの物語は削ぎ落とされ、価格比較の土俵に上げられる。
外壁塗装という仕事は、本来「美観」ではなく「保全」の産業である。 耐候年数、塗膜厚、下地処理。 顧客が本当に知りたいのは、“なぜこの金額になるのか”だ。 そこを説明できる企業だけが、これから生き残る。
2. デジタル化は「営業の可視化」から始まる
多くの塗装会社が「DX」を誤解している。 SNSを始めることでも、見積りアプリを導入することでもない。 DXの本質は、「営業行動をデータで可視化する」ことにある。
例えば、ASTERが調査した中小塗装業20社のうち、 CRM(顧客管理システム)を導入しているのはわずか3社。 しかも、そのうちの2社は「入力が続かない」と運用を諦めている。
しかし、営業の属人化を外す第一歩は、 「どの見込み顧客がどこで止まっているか」を見える化することだ。
そのために有効なのは、以下の3段階設計である。
- リード情報の整理:ポータル・チラシ・紹介などすべてを1枚のスプレッドシートに統合
- ステータス管理:初回訪問/見積提出/再提案/失注理由のラベリング
- 数字の“語り”方を標準化:「単価」ではなく「塗料寿命×㎡単価×保証」で説明する
こうして得られるデータは、広告よりも価値のある資産になる。 次の商談で、数字を根拠に信頼を築けるからだ。
3. ブランディングは“見積書のデザイン”から始まる
ASTERがブランディング支援を行う際に最初に見るのは、ロゴでもWebでもなく、見積書だ。
理由は簡単で、そこに企業の哲学が現れるからだ。 ほとんどの塗装会社では、見積書が「項目+金額」だけで構成されている。 しかし、顧客が本当に見たいのは「施工への思想」だ。
見積書に次のような要素を入れるだけで、反応が変わる。
- “この塗料を選んだ理由”の記載(ブランドと性能の説明)
- “施工前後の写真”と“保証期間”をグラフィックで表示
- “社長メッセージ”と“現場責任者サイン”を添付
営業資料は単なる数字ではなく、信頼を設計するブランドメディアなのだ。
4. 外壁塗装業のブランディング戦略3段階
① 顧客像を再定義する
「家を塗る人」ではなく、「家を守る人」に価値を感じる層をターゲットにする。 耐候性・保証・施工品質を理解できる30〜50代を中心に据える。
② 発信チャネルを整理する
- 地域SEO(地名+外壁塗装)をベースに、Webを“信頼確認の場”に。
- Instagram・TikTokは人と現場を見せるブランディング。
- YouTubeでは教育型コンテンツ(塗料比較・施工実例)で指名検索を増やす。
③ ストーリーを可視化する
たとえば「家を10年守るために、職人がどんな工程を踏んでいるか」を映像化。 塗装は“結果が地味”だからこそ、プロセスで語る。 現場の音・表情・工具の手触りを届けることが、最大の差別化になる。
5. 経営者が考えるべき“営業構造の再設計”
現場のスピード、広告の反応率、社員の力量。 どれも重要だが、最も再設計すべきは営業構造だ。
具体的には、次の3つを再構築する。
- ① フローの標準化:問い合わせ→現地調査→見積→再提案→契約までのプロセスを時系列で可視化。
- ② KPIの再定義:「現地調査率」「再提案率」「顧客紹介率」を数字で追う。
- ③ 人材配置の最適化:社長が営業に出続ける構造を脱し、仕組みで回す。
外壁塗装業は“労働集約産業”に見えるが、 本質は営業デザイン産業である。 現場を回す前に、営業を設計する。 それが、これからの「塗装業の生存戦略」だ。
6. まとめ──価格ではなく、思想で選ばれる会社へ
ポータルサイトでの見積り比較は、これからも続くだろう。 しかし、本当に選ばれる会社は、金額ではなく“思想”で評価される。
「この会社は、10年後もこの街にいる」 そう思ってもらえる企業だけが、生き残る。
AIもSNSも、動画もツールに過ぎない。 重要なのは、それらを使ってどんな物語を顧客に届けるかだ。 ASTERは、外壁塗装業をはじめとするインフラ産業が “誇りを持って発信できる”未来をデザインしていく。
編集:TRAVEL WORK 編集部(運営:ASTER)