「旅をしながら働く」「場所に縛られず働く」「旅するように働く」などさまざまな形があるトラベルワーク。当メディアでは、そのようにさまざまな形で仕事に向き合う人の働き方にフィーチャーしていきます。
今回は、豊浦町地域おこし協力隊として図書室を運営している木村美朝(きむら みさき)さんにお話を伺いました。
木村美朝さんのプロフィール
ー本日はよろしくお願いします。まず、これまでの経歴を教えてください
地元である北海道内の大学を卒業後、上京して東京のイベント制作会社に4年間勤務しました。退職後は花屋でのアルバイトを経て、北欧諸国(デンマーク等)で1年弱過ごしました。
workaway(お手伝いとホストのマッチングシステム)や、フォルケホイスコーレ(成人学校)などを利用しながら旅をして、帰国してからは北海道に戻り、2021年の4月から豊浦町の地域おこし協力隊として図書室で働いています。
憧れだった上京生活。徐々におぼえた違和感の答えを探しに北欧へ
ーこの数年でかなりキャリアが変わったんですね。上京から北欧へ行くまでどのような心境の変化があったんでしょうか。
新卒のときは、北海道生まれ北海道育ちの田舎者だったので、都会の人になりたかったんです!笑
都会でガッツリ働く、いわゆるバリキャリみたいなものに憧れていたのかもしれません。学生時代から音楽やフェスが好きで、普段違う場所にいる人たちが同じ方向を見て盛り上がっているような、特有の一体感に惹かれてイベント会社に入りました。
ただ、忙しすぎて、朝から朝まで働いて泣きながら家に帰ることもあったりして。
一緒に働いている人たちはすごく好きで、今でも恋しくなるくらいなのですが、年々「なんのために頑張っているんだろう」と思ってしまうことが増えていきました。先輩たちのように成長できていない自分も目の当たりにして、自己肯定感もどんどん低くなっていって。
同時期に知り合いや友人と、スタディツアーに参加したり、自然な暮らしを実践しているカフェやお店に行ったりすることが増えて、パーマカルチャーや環境問題について関心を持つようになりました。そうすると、広告業というか、たくさんモノを発注して、余ったら捨てて…という自分がしていることが合わないなと思うようになったんです。
次の仕事を決めないうちに思い切って会社を辞めて、ふと今後こんなに長期的に休めるのは今しかないんじゃないかと気付き、一番やりたかった海外滞在をこの期間にやりきることにしました。
もともと北欧の雰囲気も好きでしたし、男女平等やワークライフバランス、環境問題について調べると「デンマークに学ぼう」とか「フィンランドでは〜」とかいつも北欧の取り組みにたどり着くんですよね。ああ、呼ばれているのかもしれないなと思い、1人で行ってみることにしたんです。
workawayで触れた、多様な生き方の選択肢
ー東京で働いているときから興味のあった場所に行くことにしたんですね。実際どのような場所に滞在していたんですか?
workawayという、お手伝いする代わりに、宿と食事を提供してもらえる”ホストと旅人のマッチングシステム”を使って、デンマークを中心に北欧諸国をまわりました。
印象に残っている場所はいくつかあるんですが、一番衝撃を受けたのがデンマークのとある自然派ファミリーのお家。インフラ自給(ソーラーパネル、薪ストーブ、井戸水など)の家でベビーシッターをしながらホームステイさせてもらいました。
子どもと一緒に過ごしたいからお父さんもお母さんも働いていなくて、とにかく現代の文明からすごく離れているんです。
驚いたのが「Dumpster diving」と言って、スーパーの大きなゴミ捨て場の中から綺麗な食べ物を拾ってくるという、食べ物にお金をかけず、大手スーパーにもお金を落とさないという活動です。これはこの家庭だけでなく、さまざまな立場のいろんな人が行っていて、北欧だけでなく世界の他の国々でも行われていることを知りました。ゴミ箱から食べ物を漁るのが悪いのではなく、食べられるものが捨てられていることが良くないということですよね。
このお家にいたときは、全てが自分の常識の外側だったので辛くなり、当初の予定よりも早く次の滞在先に移動したのですが、後々考えてみると、旅の初めの方で常識や固定概念をぶち壊されたから、他の場所に行って今まで自分が考えてこなかったことに出会っても、スムーズに吸収ができたんだと気付きました。なので、旅の終盤では自分からもう一度その家族に会いに行って、直接お礼を伝えました。
丁度デンマークに行った頃にコロナが流行り始めたのですが、向こうでアジア人差別に遭遇したこともありませんでした。逆に人口密度も少なく、オンラインが整っていることもあってロックダウン中に生活が変わってしまうこともありませんでしたね。日本よりものびのび過ごせた気がしたし、一極集中について考えるきっかけにもなりました。
他にも都会の普通の家庭にホームステイしたり、パーマカルチャーを学びながら過ごしたり、北欧独自の教育機関であるフォルケホイスコーレへ通ったり、スウェーデンの友人の家にステイしてサスティナブルな取り組みをするお店をまわったり…。
シェルターと呼ばれる小屋で野宿したこともありました。自分は野宿なんてするタイプじゃないと思っていたので、ああ、海外だと人って変わるんだと思いましたね。
旅の最後のworkawayはスウェーデンとデンマークの間、オフグリッドでエコなお家を作っている人たちのところに行きました。「4週間キャンプできる?」と聞かれて、寒い時期でキャンプの経験もなく、かなり迷いましたけど「やります!!」と。
そこでは日中ずーっととにかく土運び。午後になるとファミリーが持続可能な家の建築や暮らし方について色々教えてくれるんです。どこのworkawayでもいろんな国の人たちとたくさん語って過ごしました。いろんな人たちと会話を重ねる中で、多様な選択肢を知ることで、もっと楽に生きられる道もあるんだなと感じました。
北欧生活をきっかけに地元の魅力を再発見!自分らしい「働き方」とは
ーその後、北海道に戻って豊浦町へ。
はい。北欧に行くまではまさか自分が北海道に戻るとは思わなかったんですけど。笑
北欧にいると、圧倒的に外で過ごすことが多くて。ご飯を食べたり、PC作業をしたりするときも外に出て空気を吸うと心地いいし、人が少ないのも快適で。
日本に戻ってからも同じように自然に囲まれた生活がしたいと思い、空き家バンクで住む場所を探していたら、たまたま豊浦町の地域おこし協力隊の求人を発見しました。日本国内ならどこでも行くつもりだったのですが、湖や海が近くて、四季がはっきりしていて、冬に雪が降ることなどの条件を挙げていたら、結局北海道になりましたね。
地域おこし協力隊は、自治体によってさまざまなお仕事があるのですが、見つけたのは図書室の運営。本はもともと好きですし、コミュニティデザインにも興味があったので応募しました。
豊浦は人口約3,700人の小さな町で、多くの人が顔見知りになります。最初は村八分的なものに怯えていたのですが、今は町の人に守ってもらっているような安心感がありますね。よく声をかけてくれたり、お裾分けをもらったり。
この町の図書室は狭い分コミュニケーションが取りやすく、静かにする場というよりも、繋がりが生まれやすい場所だと感じています。
小さい図書室ですが、リクエストが通りやすかったり、話題の本が借りやすかったりとメリットもたくさんあります。今は図書室を町づくりの場とするために、SNSでの発信やイベントの開催、ブックスタートなど色々な取り組みを行っています。最近は、子どもたちが図書室の運営に携わってくれたり、違う学校の子どもたちと交流が生まれていたりしています。
ー地域おこし協力隊の任期終了後はどのような活動をしていきたいですか?
そうですね…。雑貨屋さんやイベントスペース、自然食品のお店などに興味がありますが、まだ模索中です。北欧だけではなく東京で働いているときも、食や教育、環境問題について学べる場所や教えてくれる人に出会い、たくさんの選択肢に気付くことができたので、今後自分もそんな場所を作る側に回りたいです。
環境問題とか色々な難しい問題の正義を押し付けたい訳ではなくて、私自身、自分の当たり前の外側を知ってからは「もっと自由に生きられる」と気付いたので、そんな風にちょっとした気付きや新しい繋がりが得られる場所を持つことができたらいいなぁと思っています。
ーイベント会社時代から変わらず、人が集まる場所が好きなんですね。最後の質問ですが、木村さんにとって「働く」とはなんでしょうか?
今までは「自己実現」だと思っていました。「キラキラして働いている私」みたいなものに価値があるというか。もちろん資本主義社会なので「お金のために働く」というのも多数派ですよね。
ただ、デンマークに行ったあたりで資本主義についてよく考えるようになって。大量生産大量消費の現代だからこそ私たちは裕福に暮らしているし、海外のものもすぐ食べられるし、そこを批判したい訳ではありませんが、自給自足をして生きている家族の中に入って生活したのをきっかけに「働かなくても生きていける」ということを知りました。
別に働かなくても生きていける時代でもある今、働くってなんだろうと考えてみると「人とつながること」「社会とつながること」「助け合うこと」なんじゃないかと思っています。自分が力になれることで対価としてお金をもらい、お金を払って人に何か助けてもらう、繋がりの循環みたいなことですよね。
ただ、今回これ本当に難しい質問だな〜と思って…。たぶんこれからずっと考えていく気がしますね。笑
編集後記
図書室のお休みの日に、豊浦町の青空の下でオンラインインタビューに応じてくれた木村さん。利用者さんからもらったというみずみずしい鮮やかな苺もとっても美味しそうでした!
憧れだった東京生活から離れ、それまで興味のあったパーマカルチャーについて学ぶために北欧へ。異国の地で多種多様な生き方・考え方とぶつかることで、自分にとって心地良い暮らしと働き方を見つけたようです。
刺激的な北欧生活の話を聞いていると、暮らしや働き方、年齢に対する固定観念がどんどん壊されていき、もっと自由に生きていいんだと心が軽くなります。新たな知識をつけることでそれぞれが心地良い暮らし方を見つけ、実現できる社会になっていくといいですね。木村さん、ありがとうございました!