「旅をしながら働く」「場所に縛られず働く」「旅するように働く」などさまざまな形があるトラベルワーク。当メディアでは、そのようにさまざまな形で仕事に向き合う人の働き方にフィーチャーしていきます。
今回は写真家として活躍する滝川将矢さんにお話を伺いました。
滝川将矢(Masaya Takigawa)さんのプロフィール
ー本日はよろしくお願いします。まず、これまでの経歴を教えてください
はい。滝川将矢と申します。
千葉県出身で、大学卒業後、知人とともに3人でSNSのマーケティング会社を創業し、7年ほど役員としてクリエイティブ制作やディレクションに従事してきました。2021年1月に退職した後は、写真家として自然風景の写真を中心に撮影活動を行っています。
Instagramをはじめオンラインオフライン問わず多くの支持を得ており、国内だけでなく海外(イギリス、カナダ、アメリカ等)にも作品を販売するなど、国内外で活動中。
季節の移り変わりや気分に合わせて作品を交換できるサービス”Seasonal Collection”を展開し人気を博している。
ー写真を始めるきっかけはなんだったんですか?
きっかけになったのは留学ですね。大学3年の頃、休学してアメリカへ1年間留学へ行ったんです。ルート66を車で横断したのですが、そのときに写真を撮りたいなと思い一眼レフを購入しました。
写真を撮るのは以前から好きでしたが、そのときは全く写真の道に進もうとは思っていませんでした。多分、退職時の2年前の自分に言っても信じないと思いますが。笑 その頃はなにより、目の前のことでいっぱいいっぱいだったので。
ー写真家を志す前はマーケティングの会社をされてたんですね
はい。大学時代のときに一度自分で起業した経験もあり、知り合いから声をかけてもらって卒業後、会社を始めました。
どこかの会社に就職しようというのはあまり考えていなくて、今思うと、その頃からずっと決められたルートを歩むことを疑うような性格なのかもしれないです。
”仕事人間”から写真家へ。自然風景から見つけた自分にとって大切なもの
ー役員時代はどのようにお仕事されていたんでしょうか
朝出社して次の日の始発で家に帰り、また9時から働くという生活でした。別に強制されていたわけではなく自らそのようにしていたのですが、今思うと完全に働きすぎですね。
会社のメンバーも増えてどんどん大きくなっているようなフェーズで。もともと完璧主義だったのと、役員であるという立場的なものもあり、周りよりできなければいけない、やらなきゃいけないという責任感に突き動かされながら働いていました。仕事で結果を出さないと自分には価値がないと思ってしまっていたんです。
ーそれは…。心身ともにつらそうです
そうですね。働きすぎて退職する半年前くらいから体調を崩してしまいました。精神的にもきつくなってしまい、家からも出られないというか、何に対してもやる気が全く湧いてこない状態でした。
食事もおいしいと感じられないし、やっとテレビをつけてみても面白いと思えない。何も気力がわかなくて、朝起きて顔を洗う意味もわからない…という状態が1〜2ヶ月ほど続いていました。
今振り返ると人生で一番辛い時期だったかもしれないですね。
そんな時に当時付き合っていた彼女、今の妻が気分転換にと旅行へ半ば無理やり連れて行ってくれました。最初に行ったのが、北海道の富良野。他にも、地元である千葉に帰りました。
家からも出られないくらいだったので、最初行くのはすごく億劫に感じましたが、とにかく富良野の風景が美しくて。元気をもらえたというか、心が洗われた気がしたんです。
今まで成功ばかりに囚われてきて、結果を出せなれば自分に価値はないと思いこんでいたのですが、その時ふと、うまくいかなくても自分の親はそんなこと絶対に思わないだろうなと感じたんですよね。自然に触れることで、根本的な部分、生きている事自体がとても幸福なことなんだと気付かされたというか。家の周りの風景とか、歩いている子どもたちとか、今までと見える景色は同じでも、急に美しく見えるようになりました。
そこでだんだん気力が湧いてきて、自分のやりたいことや大切なものってなんなんだろうと考えられるようになったんです。仕事をしてきた7年間全く考えたことがなかったんですよね。
写真は昔から好きだったし、このときに自然から大事なことを教えてもらった感覚があったので、それを表現していきたいと思って写真家になろうと決意しました。
働くことは「幸せに生きる」ための手段
ーそれまでのキャリアを辞めて、0から始めるのは挑戦だったのではないでしょうか
そうですね。今までやってきたマーケティング分野とはかけ離れたものだったので、正直不安はありました。それでも「うまくできるか」とか「結果が出るか」というよりも「自分の好きな事をやって、自分の幸せをまずは大事にしたい」と思ったんです。結果的にうまくいかなかったとしても、それが自分の人生を生きることなのかなと。
なので、写真家になってからは毎日楽しいですよ。辛いと感じたことは一度もないんです。
趣味で写真をやっていましたが、誰かに教えてもらったこともなく独学なのでまず勉強するところから始めました。去年個展をやったのですが、そもそも自分のことを知ってくださっている人もいないので、ポストカードを作って飛び込みでギャラリーや店舗に置いて頂いていました。試行錯誤も多く手探りなので大変なこともあるんですが、それを含めて楽しんでいます。
ー大学時代に起業、新卒で3人の会社を興し、そして写真家へと、全て茨の道を選択されているようにも思えますが、困難な道を好むマインドが根幹にあるのでしょうか?また、これまでの経験の中で現在に活きていることは何かありますか?
経験上、精一杯努力したことは必ず自分に返ってくると考えています。なので自然とそういう道を選んできたのかもしれません。その過程で、嬉しいことや辛いことも数多く経験できた気がします。
例えば、辛いことがわかるから人に優しくできると言いますが、そういった経験があるからこそ、自分の心の中で感じることが広がり、写真という表現の道に挑戦してみようと思えました。逆に今までの経験がなかったら写真家になっていない気がします。
私の場合はたまたま写真家だっただけで、日々生きている中で感じること・経験していることはそれぞれ自分の中で活きていくのではないかと思っています。
ー「写真家」のやりがいはどのような部分にありますか?
作品を見てくださった方から、「なんだか元気が出ます」とか「エネルギーをもらいました」や「すごく落ち着きます」など、ありがたいお言葉を頂けたときは何より嬉しいですね。自分はあくまで自分の感じるものを表現しているのであって、その作品をどう感じるかは受け手にあると思っています。その上で自分としては、自然の美しさに助けてもらったような、大事なことを教えてもらったような経験があって、それを表現できればと思っているので、一人でも自分の作品から何かを感じてくださったり、喜んでいただけたり、そのリアクションがとても嬉しいですし、頑張ろうと思えます。
ーすごく素敵だと思います。最後に「働く」とはなんだと思いますか?
自分が幸せでいられるための手段ですかね。そう思ってやっています。
昔は「働くことで成功してやる」とか思っていましたね。それはそれで全く否定はしませんが、それよりも手前にある自分自身の人生を考えたときに、根本にあるものを大切にしたいなと、そのために仕事をしている感覚です。
これは「自分だけ幸せだったらそれでいい」という意味合いではなく、自分の幸せを大事にすることで、結果として周りにもポジティブな影響が伝わっていくんじゃないかと。
そして、自分に自信を持っている人って、僕はすごくかっこいいなと思います。
自分がやっていることに誇りを持っていると自然と仕事にもプラスになるし、人生にもプラスになっていくのではないでしょうか。
筆者後記
撮影中に出会う鹿の親子が寄り添って歩いている姿や、村で出会ったおばあちゃんが子どもたちを見る優しい瞳に心が打たれると話してくださった滝川さん。一瞬の水面の煌めきや、葉の繊細な光を捉えた作品、そして自然を通じて心に問いかけるような作品からは、滝川さんが見ている自然の美しさがそのまま伝わってくるようです。
働いている中でわかりやすい数値や結果に左右され、自分そのものの価値までも低く感じてしまうのは、誰しもあることなのではないでしょうか。その手前にある「自分の幸せ」はなにか考え、そのとおりに仕事をしているから辛いことはない、と言い切る強さに感銘を受けました。私もそうやって働いていきたい! 滝川将矢さん、ありがとうございました。