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言語の壁を乗り越えメジャーリーグのアスレチックトレーナーに。若手育成の課題解決へ向けて

「旅をしながら働く」「場所に縛られず働く」「旅するように働く」などさまざまな形があるトラベルワーク。当メディアでは、そのようにさまざまな形で仕事に向き合う人の働き方にフィーチャーしていきます。今回はアスレチックトレーナーの滝澤祐一さんにお話を伺いました。

滝澤祐一さんのプロフィール

経歴
・小学2年から野球を始め、高校まで野球を続ける。
・法政大学の社会学部を卒業後、1年間スポーツの専門学校で基礎を学ぶ。
・2012年にアメリカのロサンゼルスの語学学校に通い4年制大学編入を目指す。TOEFLのスコアが伸びず2013年に短期大学に入学する。
・2013年にアーカンソー州の南アーカンソー大学にてアスレチックトレーニング学部に編入し4年間プログラムを終了し、学位を取得。
・同年、アメリカの国家資格に合格し、2017年米国公認アスレチックトレーナーとなる。
・南アーカンソー大学在学中、MLBカンザスシティロイヤルズで春のキャンプでインターンを行う。
・大学卒業後は、MLBロイヤルズ傘下ダブルAレベルのシーズンインターンを行う。
・翌年の2018年から、MLBテキサスレンジャーズにてアスレチックトレーナーとして従事。
・2022シーズンはダブルAクラスに配属される。

アスレチックトレーナーについて

ーまずは職業内容について聞かせてください。アスレチックトレーナーは主に、選手が試合中に怪我をした時の対応などをするのでしょうか?

選手が試合・練習中に怪我をした時などに、プレーを続行できるか、交代するのか、瞬時に判断をします。もちろん練習中も常に怪我をしないように見ていますし、怪我をしてしまった場合は復帰までのゴールを設定して、それまでの道筋を並走するといった感じです。

ーリハビリと聞くと辛いイメージがあります。身体を動かせるようにするだけでなく、メンタルケアもやられますか?

そうですね。チームにはメンタルコーチがいるのですが、それよりも選手に1番近いのがアスレチックトレーナーなのかなと思っています。
普段から常に選手とのコミュニケーションを大事にしています。特に怪我をしてリハビリ中の選手については、復帰まで身体と心のケアは欠かせません。100%以上の状態で復帰させたいので、筋肉や身体のケアとともにメンタルケアも大事にしています。

ーシーズン中はアスレチックトレーナー仕事は試合中以外にもあるんですか?

シーズン中は仕事以外の時間はあまりありません。休みの日も選手の病院に付き添ったり遠征のために移動をしたりするので、基本的に24時間体制なんです。夜中であっても緊急なことがあったら病院へ連れて行くなどの対応が求められます。

ーアメリカの野球界で活躍している日本人トレーナーは多いですか?

数えられる程だと思います。球団によって違いますが、日本人が1人もいない球団もあります。

ーアスレチックトレーナーは1チームあたり何人いるのですか?

アスレチックトレーナーはチームに基本的に1人です。ただしメジャーリーグは別で、ヘッドアスレチックトレーナーに加えてアシスタントと理学療法士がいて、3人体制でやっています。

ー1人で24時間体制となるとかなり大変ですね…! シーズン中はアメリカ国内を飛び回っているのでしょうか?

そうなんです。メジャーリーグの場合は飛行機で移動するのですが、マイナーリーグに関しては、隣の州までバスで10時間くらいかけていくこともあります。リーグのなかで3~4州を行ったり来たりする感じですね。

ーでは、シーズン中の半分以上は家に帰らない生活になるんですね。とてもハードそうですね。

はい、年間で約120試合あって、その半分は遠征なのでホテルに泊まることになります。
ナイトゲームの場合、試合前の練習やリハビリなどを12時くらいから行います。私は球場に10時には行って、選手が来る前に書類の整理、リハビリプログラムの見直しなどをします。試合開始が7時からで、試合が終わるのが9時半とか10時、長い試合で11時前くらいです。試合後、選手のケアやトリートメントをしてホテルに帰ったら12~1時になっています。ハードではありますが、辛いとは感じません。

ー選手が笑顔でプレーしているのが1番のモチベーションになっているのでしょうか?

普段から怪我をさせないように気を配り、怪我をしたら復帰させて。近くで見ているからこそ、プレーしているのを見ると本当にやって良かったなと思いますね。
リハビリって時間もかかるしすごく地味なんです。なので怪我をした選手が笑顔でプレーしているのを見るとより嬉しく感じます。
しかし普段から傷害予防に選手とともに取り組んでいるので、怪我をせずにプレーできること、怪我を未然に防ぐこと、怪我をさせないことが大事で、このことに関してもモチベーションになっています。

自分にぴったりの職業を見つけた瞬間

ーなぜこの職業に就いたのか教えてください。

野球に関わる仕事がしたいというのが前提にあって、1番選手の近くで働けるのがこの職業だったからです。
なので職業が先というよりも、やりたいことが先にある感じです。アスレチックトレーナーを目指すとなった時に、アメフトやサッカー、NBAという選択肢もありましたが、やっぱり高校まで続けた「野球」が大前提にありましたね。
野球だったら、さらに自分の職業を深掘りして極められる感じがするんです。

ー高校まで野球を続けていたと思うのですが、もともとはプロを目指していたのですか?

中学生くらいまではプロになりたいと思っていました。でも高校で野球部に入ると、上には上がいると痛感して……。それからは野球を続けられれば良いな、くらいの気持ちで甲子園を目指して頑張っていました。

ー別の記事で拝見したのですが、アスレチックトレーナーの道に気付いたのがバイト中というのも珍しいですよね。

大学で周りが就職活動をしていくなかで、自分はなかなかしっくりくる職業に出会えなかったんです。そんな時ゲームセンターのバイト中に、アスレチックトレーナーの道を先輩から教えてもらったという感じですね。

ーその翌日から、どうすればその職業に就けるのか調べられたんですよね。行動に移す早さからして、そうとう衝撃を受けたのではないでしょうか。

当時の自分はやりたいことが本当になくて…。銀行やアミューズメント会社など色々な企業を受けたけどしっくりこなかったんです。
でもバイト先の先輩が教えてくれたその一言を聞いた瞬間「これだ!」と感じて。自分がアスレチックトレーナーとして働いている姿をリアルに想像できたので、次の日からすぐに行動に移しました。

プロと学生の違い、引き出す難しさとは

ー以前インターンもやられていたと思うのですが、大学時代にバイトなどでのアスレチックトレーナーの経験はありますか?

大学時代はバイトはしていませんでしたが、大学のアスレチックトレーニングのプログラムで毎学期、大学の部活のチームに配属され、そこで有資格者のもとで実習の経験を積むということをしていました。毎学期120時間以上の実習を積みました。なので野球はもちろん、アメフトやバスケ、ソフトボールなど色々な競技で経験を積みました。

ー在学中には座学だけでなく実技も多くあったのですね。

授業の半分が実技でした。怪我の手当についてまず教科書で学んでから、実際に人間の身体でやってみる。授業が終わったあとの放課後に、それを部活で実践するといったイメージです。
国家資格を持った人のもとで規定の時間数、実践を積まないと国家資格を受けられないので、そのようにプログラム化されていましたね。

ー卒業後、インターンでAA(傘下マイナーチーム)に入ってみて大学と違うと感じたことはありますか?

まず身体つき、そしてとても細かいところまで気を配る点が大学と違いました。部活で優勝を目指すのとは違って、彼らは野球で生活していかなければならない。
加えて、数億円で契約した選手を任されるので、球団側はちょっとしたことでもすごい気を遣うんです。それが大学になかった1番違うところですね。

ープロ選手は学生よりも繊細に違和感を訴えてくるのではないでしょうか。その部分で対話が難しいと感じたりしましたか?

普段からの関係ができていないと、選手も本音を言ってくれません。もしかしたら嘘をついているかもしれない。なので関係性を築いた上で引き出すのが難しかったところです。

ー関係性を築いた上で引き出す力が求められるんですね。

そこは入ったばかりの時に本当に苦労した部分です。英語で詳細を引き出すのも難しいです。ちょっとした意味合いの違いで、「選手はこう言ってたけど本当は違った」ということも最初はありましたね。

ーコミュニケーションがとても重要なポイントになりますね。

選手に信頼されれば、色々と教えてくれるのですが、コミュニケーションを密に取ることと、ちょっとした変化を見逃さないようにすることは常に大事にしています。
例えば選手が怪我を報告してきた時に、歩き方や話し方が普段と違うな、とか。本当にちょっとしたことに気を配ることで、意外と色々見えてくるんです。

ー10年前、語学に1番課題を感じていた滝澤さんが、今では選手と詳細にコミュニケーションを取っています。外国人との関係を取り持つためのポイントなどはありますか?

相手に興味を持つというのはとても大事だと思います。そうすることで何を考えているのか自然に分かってくるというか。とにかく、考えすぎないのが1番。
日本人は英語が喋れないと殻にこもりがちですよね。綺麗に文法を喋れないといけないと思ってしまい、あと1歩を踏み込めない。本当に大変ではあるけど、何も考えずに思ったことをやるのは大切にしてます。自分が思っている以上に相手は言葉の壁を気にしていないですし。

ー日本人は海外で活躍している方への憧れってあると思います。自分、活躍しているぞって思う瞬間はありますか?

日本人のプロ野球選手がメジャーリーグを目指すのと一緒で、アスレチックトレーナーにはメジャーリーグで働きたいという人が多くいます。なので、やっぱりメジャーリーグで働いていることは活躍してる、自分はよくやったなとは思いますね。

若手を育成し、アメリカを超えるという目標

ー滝澤さんにとって、働くとは何でしょうか。

これまでは自分のために働いて自分のためにお金を稼いでいました。でも結婚して娘が生まれたのが一番大きくて。生まれた時に、親が自分にやってきてくれたことを、今度は自分がやってあげたいって思ったんです。
アメリカに来させてもらって今こうやって働けているのは親のおかげなので。自分の娘にも不自由させたくないと考えた時に、家族を守るためにお金を稼ぐだけでなく、自分もステップアップしていかないとなと思っています。

ーでは、将来の目標は何ですか?

国を背負って働いている人って本当にすごいと思っているんです。スポーツ以外でも、例えば伝統工芸をやっている方とか。プロと呼ばれる方は尊敬できるので、自分もアスレチックトレーニングの分野でプロフェッショナルになりたいです。
今はアメリカでやっているので、将来は日本を背負って日本代表してアメリカを倒したいと思っています。

ー今後アメリカを超えていくためにどうしていきたいと考えていますか?

まずは若い人たちに、アスレチックトレーナーという職業への興味を持ってもらいたいです。日本でスポーツトレーナーというと、マッサージトレーナーだったり、パーソナルトレーナーだったり。アスレチックトレーナーがそこまで広まっていないと感じます。
若い人に知ってもらって目指す人が増えて、そして自分がメジャーリーガーで培った技術を教えることで、どんどん底上げしていけたらなと。
日本は何年も遅れているといわれていて、やっぱり悔しいんです。アメリカに負けたくないし、1番のライバルだと思っています。アメリカ人が日本に憧れるくらいになってくれると良いなって思っています。

筆者後記

「野球」にこだわり続け、自分にぴったりの職業を見つけた滝澤さん。アスレチックトレーナーになるためにさまざまな壁を乗り越えてきましたが、決して簡単な道ではありませんでした。
それでもアスレチックトレーナーとして働く自分の姿を想像しながら努力し続けたというお話を聞いて、自分はそれほどまでにひたむきに何かに打ち込んだことはあっただろうかと、どこか羨ましくも感じました。
必ずしも自分にぴったりの職業が見つからない世の中でアスレチックトレーナーという職業に出会い、それを実現させた滝澤さんの行動力に勇気をもらう方は少なくないでしょう。次なる目標も達成できるよう陰ながら応援しています!