短期間で効率よく語学力の底上げをはかるには、「留学」という手段が最も効果的だと考える人は多いでしょう。しかし、単に海外に身を置くだけでは、語学力の向上はあまり期待できないのが事実だと言えます。そして、海外への憧れが強い人ほど、「海外に行けばなんでもうまくいく」と考えてしまいがちです。この記事では、留学で語学力を向上させる上で知っておくべきことや、留学生活のリアルについて解説しています。海外留学やワーキングホリデーなどを考えている方は、ぜひ参考にしてください。
留学の目的をどこに設定する?
新型ウイルスの流行により、昨今は海外に渡航することも困難になっていますが、コロナ禍が過ぎたら海外留学しようと考えている人は多いはずです。留学には、その形態によって様々な目的が設定されています。例えば、交換留学では異文化の体験、ワーキングホリデーでは海外での一時的な就労を最大の目的としています。語学留学は現地語の習得に特化したシステムですが、それに限らず一定期間海外に滞在するいずれの制度においても、現地で生活する中での現地語の習得を大きな目的のひとつとしている人は非常に多いはずです。もちろん留学を通して私たちは様々な知識や経験を得ることができますが、せっかく海外に滞在するのであればやはり現地語はマスターしたいものですよね。
留学で語学力はどれだけ向上する?

筆者は高校在学中にアメリカ合衆国に1学年間の交換留学を経験しましたが、現在の留学に対する知識や捉え方を当時も持ち合わせていれば、より高い次元で語学を習得できたのではないかと考えています。後述しますが、本当に語学を上達させたいのであれば、出発前の準備や帰国後の学習等も重要になってきます。しかし、そのいずれも十分ではなかったことを後悔しています。ここでは、このような筆者自身の体験も踏まえて留学での語学力向上についてご紹介します。
そもそも留学するだけで言語力は向上するのか
結論から言ってしまいますが、「留学するだけで語学力が向上する」ということはほとんどないと言っていいでしょう。なぜなら、留学で得られる語学力の向上は、事前に積み上げられた土台の上に成り立つものであり、いきなり現地で一から習得しようとするのは少々無理があるからです。そのため基本的な文法事項や単語などは、出発前にあらかじめインプットしておく必要があります。それを怠ると、いくら現地で実践的な語学力を身に付けようとしても、上達はなかなか難しくなるのです。
短期留学では、ほぼ語学力は向上しないと考える
数ヶ月以下の短期留学では、語学力はほとんど向上しないと考えた方がよいでしょう。一般的に、人が新たな言語に対して適応と学習を始めるまでに3ヶ月かかると言われています。これはつまり、留学開始時から3ヶ月経ったあたりでようやく現地語に慣れてきて、少しずつ理解し始めるということです。筆者自身、この3ヶ月という期間の設定は非常に納得のできるものです。渡航してしばらくはネイティブたちの話す英語のスピードやボキャブラリーの多さについて行けず、不安の毎日でしたが、約3ヶ月を過ぎたあたりから自身の英語力の向上を実感し始めました。数週間〜3ヶ月以下の短期留学だと、この「3ヶ月の壁」を乗り越える前に帰国のタイミングがきてしまうため、言語力の向上はほとんど見込めないということです。
長期留学でも相当の努力が必要
1、2年の長期留学でも、事前準備や滞在中の努力、帰国後の継続的な語学学習を相応に行わなければ、なかなか成果は得られません。1年間海外に留学しただけでは、残念ながら皆さんが考えるほどには現地語が「ペラペラ」になって帰って来ることはできないでしょう。もし、特定の言語を留学によってネイティブレベルで操れるようになりたい場合は、年齢にもよりますが、一般的に最低でも3、4年の期間が必要だと言われています。非常に効率的な学習を継続的にできる人は、もう少し期間が短くなるかもしれませんが、それでも短期間で言語の習得が可能であると考えることは注意が必要です。
留学で語学力を向上させるには

ここまで、非常に長期の滞在でない限り留学のみでは確実な語学力アップはあまり期待できないことを説明しました。しかし、留学前後に適切で十分な語学学習をすることで留学により得られる語学力向上の成果は大きく左右されます。気落ちせずに前向きに備えましょう。
出発前にすること
参考書や単語帳で勉強するより、現地に行って直接言語を学ぶ方が実践的で楽なように感じられるかもしれません。しかし実際は、参考書や単語帳などを使用して新たな言語を習得するための土台を築いておかなければ、渡航後に実践で頑張ろうという気概を持っていても、思うように現地語を理解できるようにはならないでしょう。先ほど「3ヶ月の壁」というワードを出しましたが、海外留学出発前に現地語の学習に力を入れれば入れるほど、この「3ヶ月」に当たる期間は短くなっていくはずです。
帰国後にすること
一定期間海外に滞在して言語を習得したなら、帰国後も継続的にその言語を学習し続けなければいけません。一度覚えたと思っていた文法や単語、言い回しなども、時間が経つと思っていたよりもすぐに忘れてしまうものだからです。筆者も、ある程度操れるようになったはずの英語四技能も、帰国後3年の間にかなり失ってしまいました。せっかく苦労して習得した言語ですから、帰国後も継続的に参考書などの書籍や映画などのメディアで復習したりネイティブスピーカーと会話したり、人に教えたりなどする機会を十分に設けて、忘れない工夫をしたいものです。
海外に行けば、「海外ドラマのような生活」は送れる?

憧れの海外ドラマや映画の世界、セレブの私生活を写したSNS。これらは確かに異国の生活や文化、言語に興味を持つ素晴らしい材料です。しかし、これらを海外の人々のリアルな日常として捉えるのは少しキケンかもしれません。理想を高く持ちすぎると、実際に異国に身を置いた際の現実との間に大きなギャップを生んでしまうことに繋がりかねないからです。
留学は楽しいだけではない
「海外」や「留学」と聞くと、まず「かっこいい」「お洒落」「楽しい」などポジティブなイメージを浮かべる人は多いと思います。しかし、単身で異国に一定期間身を置くということには、厳しいことや辛いことも付き物です。その代表とも言えるものがホームシックですが、現地の気候や住環境、また食事や人々の国民性などの要因で、自身が現地に馴染めないと感じる可能性も大いにあります。たとえばホストファミリーや寮友と馬が合わないかもしれません。「留学さえすれば全てうまくいく」と考えたり、海外での生活自体に無条件に憧れを抱きすぎたりするのは考えものだと言えるでしょう。
都会に行くのか田舎に行くのか
加えて、ひとくちに「海外」と言ってもいろいろな国や地域を指します。私たちはこと欧米に対して、ドラマや映画、音楽などのメディアを通しておしゃれで先進的な空気を感じがちです。しかし当然ながら、どんなに発展している国にも都市部の周りには広大な農村地帯が広がっています。つまり、もしも留学先を自分で選択することができない制度を利用する場合、「お洒落」で「便利」な都市部に派遣される可能性は高くないことを理解しておくべきだということです。田舎での生活は海外の学園ドラマや恋愛映画などに見られる、都会のキラキラした生活とかけ離れてしまうかもしれません。しかし、都会には都会の良さがあるように、田舎には田舎の良さがあるものです。人と人とのより温かな繋がりや、田舎ならではの文化体験を享受できることもあるでしょう。はじめから「留学するなら都市部」と決め込んでしまうのは、実はとてももったいないことかもしれません。
都会でも自分の努力次第
確かに都市部の方が娯楽を楽しめる機会は多いでしょうし、より便利な生活ができるかもしれません。しかし、仮に都市部に派遣された場合でも、友達や先生、上司、ホストファミリーなどとの人間関係を積極的に構築していくことが出来なければ、孤独感を味わうことになるかもしれません。そのような人はホームシックにもなりやすく、留学生活自体の満足度も低くなってしまいます。つまり、自分の努力次第で留学生活の在り方は大きく変わるということで、その経験を生かすも殺すも自分自身なのです。留学というのは大きなチャンスですから、せっかくなら十分な準備をして、派遣先がどこになってもポジティブに挑んで欲しいと思います。